日経ビジネスオンライン 記者の眼より
東京の桜の命は、今年は短かった。それでも記者という仕事柄、外に出ていることが多く、多少は桜を楽しめた方かもしれない。
都内でも隠れた観桜の名所に青山霊園がある。ここは静かで、思索にふけりながら花見するには最高だ。その青山霊園のある桜の古木の脇に古い祠(ほこら)がある。いつ訪れても、お供え物が絶えない。
この祠は「忠犬ハチ公」の墓だ。飼い主であった東京帝国大学教授・上野英三郎氏の墓の脇に、主人を守るように建っている。
言うまでもないがハチ公は、渋谷駅前の、定番の待ち合わせ場所のモデルにもなっている、「国民犬」だ。
今月、ハチの生まれ故郷である秋田県のJR大館駅前で、ハチの80回忌法要が営まれたと聞いた。これほどまでに愛され続ける犬は、世界的にもあまり例がないのではないか。
今年はハチの没後80年の節目。ハチの死を通して、近年のペットビジネスを支える日本人の死生観を探ってみたい。
焼き鳥の串が刺さって昇天?
ハチは1923年、大館生まれの秋田犬だ。生後間もなく、上野博士の飼い犬として引き取られた。ハチは毎朝、上野博士の出勤のお供をし、渋谷駅で見送るのが日課だった。
それも2年で終わりが来る。博士が急死、ハチはその後7年間にわたって、渋谷駅で博士を待ち続けた。そのけなげな姿が朝日新聞で取り上げられ、一躍、有名犬に。駅前の銅像は生前に造られた。この像は戦時中に金属供出の憂き目に遭い、今の渋谷駅前の像は「2代目」である。