柴犬に点滴する中矢詩織さん(右)。丁寧な診察で訪れる飼い主は後を絶たない=大阪市鶴見区
 
 
 
 
柴犬に点滴する中矢詩織さん(右)。丁寧な診察で訪れる飼い主は後を絶たない=大阪市鶴見区
 
 
 
ペット医療にたずさわる獣医師が増えている。
 
 
ヌやネコに人間同様の診察を受けさせたいという、飼い主のニーズの高まりを受けた形だ。その一方で、技術の未熟さから医療過誤などトラブルに発展するケースもあり、「獣医師の育成環境を見直すべきだ」という指摘も出ている。
 
 
◆家族も同然
 「おなかをこわしているので診てあげてほしい」
 8月8日夜、大阪市鶴見区の動物病院「おぐりペットクリニック」。70代の主婦が飼っている柴犬を心配そうに見つめた。冷たいものを食べすぎたという。獣医師の中矢詩織さん(39)が診察台に上げて、点滴を落とし始めた。
 腹痛、目の充血、異物をのみ込んだ…。平日は30~40人、土日も50人の飼い主がペットを連れて診察にやってくる。細かな体調変化に気を配り、健康診断も欠かさない。中矢さんは「数年前よりも、ペットを家族同然と考えている人は多くなっている印象」と話す。
 社団法人ペットフード協会が昨年実施した実態調査によると、国内で飼われているイヌは約1087万匹、ネコは約974万匹に及ぶ。調査に回答した飼い主のうち、ペットの存在によって「生活に潤いや安らぎを実感できるようになった」「孤独を感じなくなった」という人がいずれも5割を超えていたという。
 
 
◆医療過誤も
 農林水産省によると、獣医師の数は平成16年の3万1333人から24年には3万8293人まで増えた。中でもペットなど小動物診療にあたる獣医師の割合が最も高く、24年現在で1万4640人に上っている。
 ペット医療へのニーズの高まりに比例して、トラブルも相次いでいる。国民生活センター(東京)によると、医療や保険、美容といったペットサービスに関する相談件数は10年前からほぼ倍増し、昨年は549件を数えた。このうち6割が獣医師への苦情。「飼いネコが不妊手術の失敗で死んだ」といった医療過誤の相談も少なくない。
 
 
◆フォロー不十分
 トラブル増加の背景として「獣医師免許を取得した後のフォローが不十分だ」と指摘するのはペットの医療問題に詳しい渋谷寛弁護士(東京弁護士会)。
 大学の獣医学部で6年間学び、国家試験にパスすれば免許を取得できるが、人間の医師に2年以上の臨床研修が義務づけられているのに対し、獣医師の場合は努力規定でしかない。実務経験がほとんどないまま現場に出る獣医師も多い。
 実際、小動物専門の研修医の受け入れ施設も大学と民間を合わせて18施設にすぎず、受け皿が整っていないとされる。日本獣医師会の細井戸大成理事は「将来的に臨床研修を義務化するなど、育成の仕組みを時代に沿う形で変えていく必要がある」と話している。